父よ母よ、と泣く子供をその男は手酷く打った。
子供は打たれたままに俯いていたが、もう泣き言は口にはしなかった。
それでから問うのだ、
「お前は何故泣く」、と。
子供は少しの間の後に答える。
「…悔しい」
「悲しいからじゃないのか?」
「…それもあるけれど、それはちがう」
「…ほう、お前は―――」
待っても降っては来ない続きの言葉を求めて、顔は下向けたままに視線のみを動かした子供は、
その顔を見て気付く。元々聡い子だ。
傍から見れば、耳障りなすすり泣きに、単に癇癪を起こしただけのように見えたろうが、
その目はごくごく冷静さを保ち続けていた。いつも、変わらない。
出会った時からずっと変わることの無い冷光に、子供ながらに遣る瀬無さを感じる。
どれだけ口で笑って見せようと、笑い声を発しようと、この男は変わらない。
いつだって笑わない。
笑えないのだ、と思う。
そう考えると、家族を失った自分もそうだが、彼は自分まで失くしてしまったのだと、
自分などよりも余程可哀想に思えてきて、泣き止んで、
また、泣いた。
何故ならその子供は気付いてしまった。
自分も彼と同じ道を辿るのだ、と。
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